主要な経営指標|経営の実態を把握する
経営指標と聞くと、なんとなく苦手意識を持っている人もいると思います。ただ、一度理解してしまえば決して難しいものではありません。
そして使いこなすことができれば、企業の現状を把握し意思決定を行っていくうえで非常に有効なツールになります。
この記事では、主要な経営指標と使用の際の留意点についてご紹介します。
経営指標の種類
経営指標を用いて分析を行う際、最も留意すべきは多面性の担保です。というのも、一面的な分析に留まる場合、企業の状況を正確に把握できないリスクや、誤った意思決定に導く危険性があるからです。
経営指標には、大きく分けると以下の通り5つの切り口があります。それぞれ重視するものが異なるため、各切り口から企業を分析することで、より正確に状況を分析することが可能です。
- 総合力
- 収益性
- 効率性
- 安全性
- 成長性
総合力
企業が存続していくためには、利益を計上し続けることが不可欠です。総合力とは「企業全体として利益を上げる力」を指します。
この総合力を示す経営指標としては、ROAとROEが代表的です。
- ROA=事業利益÷総資産 ※事業利益=営業利益+受取利息
- ROE=当期純利益÷自己資本
ROAは、保有する資産を使ってどれだけの利益を上げることができているのかを示します。
ROEは、自己資本(株主からの出資とこれまでの利益の累計)から、どれだけ利益を生み出せているかを示しています。ROEはその性質上、株主が特に重視する傾向にあります。
ROA・ROE共に、その算出式を分解することで、何を改善すれば数値が改善するのかが明確になり、企業としての改善ポイントを絞ることが可能です。また、同業他社との比較を通じて、利益を計上する力の差がどこにあるのかを分析することもできます。
総合力を分析する指標はこれだけではなく、他にはROICなども使われます。詳しくはまた別の記事でまとめます。
収益性
総合力が「企業全体として利益を上げる力」だったのに対し、収益性は売上/費用構造的な面から利益を上げる力を評価します。
具体的には、売上高に対してどれだけの利益を計上することができたのか、すなわち売上高利益率を分析します。どの利益を用いるかによって評価するポイントが異なるため、大きく4つの利益を用いることが多いです。
- 売上高総利益率=売上総利益÷売上高
- 売上高営業利益率=営業利益÷売上高
- 売上高経常利益率=経常利益÷売上高
- 売上高当期純利益率=当期純利益÷売上高
例えば、売上高総利益率は、商品の粗利に焦点を当てた指標で、その原価率や商品力を判定する際に有効です。
各指標の使い方などについては、こちらの記事で詳しく書いています。
効率性
効率性は、どれだけ資産・負債面での無駄を排除し効率よ売り上げを計上できているかを示します。
売上高に対し、どれだけの資産・負債を抱えているのか(必要としているのか)を分析するために、回転率という指標を用いるのが一般的です。
よく使われる回転率は以下の通りです。棚卸資産回転率や仕入債務回転率の分子を売上高とするケースもあります。
- 総資産回転率=売上高÷総資産
- 売上債権回転率=売上高÷売上債権
- 棚卸資産回転率=売上原価÷棚卸資産
- 有形固定資産回転率=売上高÷有形固定資産
- 仕入債務回転率=売上原価÷仕入債務
何の効率性をみたいかによって、重視する指標は異なります。それぞれの意味合い、使いどころにについては、別の記事でまとめます。
安全性
安全性は、企業の財務体質が健全なのかどうかを判断する指標です。対象とする期間、安全性を見極めたいポイントによって、以下の指標を使い分けます。
- 短期安全性
流動比率=流動資産÷流動負債
当座比率=当座比率÷流動負債 - 長期安全性
固定比率=固定資産÷自己資本
固定長期適合率=固定資産÷(固定負債+自己資本) - 資本構造の安定性
自己資本比率=自己資本÷(負債+純資産) - その他
手元流動性=現預金+短期所有の有価証券
インタレスト・カバレッジ・レシオ=(営業利益+受取利息・配当金)÷支払利息
業種や企業規模によっても異なりますが、例えば流動比率は少なくとも100%以上、120%~140%程度が望ましいといわれます。手元流動性は、コロナウイルスの影響が続く環境下では特に重要な指標となりました。土台がしっかりしているかを見抜くうえで、安全性を把握しておくことは重要といえるでしょう。
それぞれの指標の見方や目安についても、別途まとめる予定です。
成長性
企業は社会に価値を提供し、その対価としてお金を受け取ります。社会にとって必要とされているかどうかは、売上を継続的に計上できるかどうかで見極められるといっても過言ではありません。
成長性とは、過去と比較して企業がどれだけ伸びているかをはかる指標です。主要な指標としては、売上高成長率や総資産成長率があります。
経営指標をみる際の留意点
現状分析や今後の戦略策定に有用ではあるものの、経営指標も万能ではありません。業種や会社の規模、成長ステージによっても求められる数値が異なるのは当然として、それ以外にも以下のような留意点があります。
まず、上記はすべて会計上の数値であり、必ずしも企業の実態を表していない可能性があります。企業ごとの会計方針によって数値の出方が異なることを頭に置いたうえで利用すべきです。
また、特に資産について、日本の会計基準上は簿価ベースとなります。例えば、保有している不動産の価値が大きく上下していても、それは反映されていません。(IFRS:国際会計基準適用会社を除く)
さらに、形のない資産は反映されません。人材に強みがある、技術に強みがある、業務プロセスそのものに強みがあるなど、経営指標では評価できない重要な要素があることも忘れてはいけません。
ただし、だからといって使えない指標では決してありません。留意点を把握したうえで適切に活用することで、経営上重要な情報を得ることが可能です。
まとめ
今回は、企業の現状を把握し意思決定を行っていくうえで非常に有効な経営指標とその留意点についてご紹介しました。
- 総合力
- 収益性
- 効率性
- 安全性
- 成長性
それぞれの指標について、ただ計算式を覚えるのではなく、それらが意味するものや数値の評価基準を把握し、適切に評価することが求められます。
それぞれの詳細は別の記事に譲りますが、まずは経営指標の重要性を再認識したうえで、継続的に指標の推移をみる、他社と比較することによって、経営数字を意識した現状分析と意思決定が可能になるでしょう。